「仕事着」はもう買わない 服の選び方コロナで変化

コロナ下で、よりカジュアルになったオフィス着(東京・渋谷)

コロナ下で、よりカジュアルになったオフィス着(東京・渋谷)

コロナ禍をきっかけに若い女性の通勤・オフィスでの装いが変化している。日経MJは都内に勤める20~30代女性約80人に洋服の買い方の変化を聞き取り調査した。見えてきたのは、買う場所・機会の変化だ。住宅地やネット上の店が選ばれ、買う枚数も減る傾向に。ファッション不況のなか、消費者に選ばれるブランドがより狭まり、業界の淘汰がさらに進む可能性もある。

■プライベートと共通に

「出勤機会が減って、顧客とのミーティングもオンラインになったので、オフィス用の服の購入も減ったかな」と話すのは東京都新宿区の企業に勤務する営業職の角田愛美さん(27)。これまで月2回は1回1万円程度、服を購入していたが、今は2カ月に1回1万円程度の支出だ。

通勤・勤務時のコーディネートも変わった。これまでは取引先と会うことも多く、黒か紺のジャケットにパンツ、パンプスというスタイルだった。しかし、コロナ後はカーディガンで出勤するなどカジュアル化。「プライベートで出かける時と同じになった」

人材情報管理サービスカオナビの「カオナビHRテクノロジー総研」調査によると、8月時点で23.2%の人が「リモートワーク」(出社との併用含む)をしている。通勤電車も以前ほど混んではいない。

通勤が減れば、オフィス着として必要となる枚数も減り、購入頻度も下がる。服のスタイルが変われば、買うブランド、買い場所も変わる。

■ネット通販に移行、「店には行かない」

経済産業省の商業動態統計によると、百貨店の衣料品販売(既存店ベース)は9月も前年同月比36.6%減と落ち込んだまま。ルミネの既存店売上高も9月は同29.3%減。オフィス街や都心部の店舗でオフィス着を買う機会は減っている。一方、住宅地にも店舗が多く、ベーシックな服が多いユニクロは10月の国内既存店売上高(ネット通販含む)は同16.2%増と好調だ。

ネット通販に移行したい人も多い。東京都渋谷区の企業に勤務する安藤綾さん(32)は、コロナ禍で初めて「ZOZOTOWN」や「ショップリスト」で服を購入、「めちゃくちゃ安くてびっくりした」と話す。

リアル店舗の苦戦を尻目に、ZOZOの7~9月の商品取扱高は前年同期比13.1%増えた。東京都新宿区の企業に勤める星めぐみさん(25)も「店にいくことがほとんどなくなった」。現在買うブランドは、「ジーユー」に加え、ネットを中心として販売するブランドの「fifth(フィフス)」や「coca(コカ)」だ。

東京・丸の内に勤務する女性会社員(32)がコロナ下で初めてネットで買ったのが韓国発でファッションやコスメを扱う通販サイト「DHOLIC(ディーホリック)」。ワンピースで3000円ほどと手ごろで、「気兼ねなく着倒せるし、気に入ったらもう一枚買っても気にならないほどの値段なのがいい」。

服のトレンドにも変化が。東京都渋谷区の企業に勤める風間玲さん(28)は「トレンド色の強いブランドだと来年以降は着られないかもしれないので、定番アイテムを買うようになった」。以前は輸入もののほか、「スナイデル」「ZARA」「ユニクロ」「フレイアイディー」などのブランドを買っていた。しかし現在は輸入ものと「ユニクロ」「ジーユー」だ。

東京都品川区の30代女性は緊急事態宣言が発令された時に断捨離を進めたが、捨てた服の大半が「ZARA」などのファストファッション。「あったら便利かなという基準で毎シーズン10万円買っていたが、結局本当に欲しいものではなかった」。今後は「ビームス」などのセレクトショップで買うつもりだという。

■買う枚数減らし高めの1着を

この10年成長が続いていたファストファッション市場はコロナ前から変調が指摘されていたが、コロナ禍がさらに後押しする可能性も出ている。

東京都中央区の企業に勤務する小池永莉さん(28)は「1着あたりの価格はむしろ高くなった」。コロナ前はとにかくバリエーションをそろえなければならないと思っていたが、オフィスに行く回数が減り、必要な枚数も減った。その結果、「『ステュディオス』や『ラコステ』で気分が上がる服を優先している」。

東京・丸の内に勤務する山脇一恵さん(30)も1着数千円の服を買っていたが、今は1着1万~2万円の長く着られるベーシックな「イネド」や「インディヴィ」を買うようになったという。

オフィス着への支出を減らした人も、1着あたりの支出は増やした人も、共通するのは、1万円弱ぐらいの価格帯は避けるようになったこと。デザインもベーシック志向が強い。都心の商業ビルに強いブランドやファストファッションで、オフィス着需要が強かったブランドの多くは、コロナで戦略の見直しを迫られているのは間違いない。

■ネット専業ブランドが存在感

コロナ禍で服を買う場所としてネット通販の存在感は高まった。実店舗を持たないネット専業のブランドが急速に売り上げを伸ばしている。今回、複数の女性が「コロナ後に買ったブランド」として名前を挙げたのが「fifth(フィフス)」。上品なテイストの服を低価格で扱い、消費者とSNS(交流サイト)を通じたコミュニケーションで成長してきた。

fifthは8月から期間限定のショールーミング店舗をオープンした(東京・渋谷)

fifthは8月から期間限定のショールーミング店舗をオープンした(東京・渋谷)

10月末時点の会員数は前年同月比5割増の227万人、21年1月期の売上高(受注ベース)は前期比4割増の63億円を見込む。顧客の中心は20代前半から40代の女性。コロナを経て新規顧客、特に40代の増加が顕著だという。

運営するコードシェア(東京・渋谷)の「インスタグラム」の公式アカウント登録者は約91万人にのぼる。発信力のあるインフルエンサーを使うだけでなく、同社の従業員も商品説明やコーディネートの紹介に携わり、投稿欄での消費者との交流にも力を入れる。

既存アパレルなどの実店舗で活躍してきた優秀な販売員も積極採用し、購入額が大きい優良顧客に特化した「ネット接客」も進める。

SNSを駆使するのはファンづくりのためだけではない。フィフスでは初回の仕入れを受注見込みの4割程度に抑えている。消費者の反応に応じて商品の追加生産などを決め、在庫のリスクを最小限に抑える。顧客アンケートやSNSなどを見ながら、次回の商品設計に反映する。

「fifth」はSNSの反響を見ながら次の商品企画を練る

「fifth」はSNSの反響を見ながら次の商品企画を練る

同社は期間限定で東京・原宿に試着専用の店舗を設けている。購入はあくまでもネット経由とし、顧客との新しい関係づくりを模索する。

コードシェアの江島晋一社長は「コロナで動画配信を見る人が増えた」と話す。今後は公式ユーチューブチャンネルなどを拡充するつもりだ。

同様にコロナ禍で存在感を高めているのが、韓国発のサイト「DHOLIC(ディーホリック)」だ。運営するDHOLIC FBL(東京・渋谷)によると、「足元のユーザー数は前年同期に比べ45%増加した」という。

■ファッション業界の「矛盾」露呈

オフィス着はここ数年、働き方改革の流れをうけて公私の服装の区別が薄らいできていた。これがコロナ禍で一気に加速した、と指摘するのは伊藤忠ファッションシステムが運営するifs未来研究所の川島蓉子所長だ。「漫然と職場のドレスコードに従うのでなく、一人一人がどんな装いをしたいのかファッションと向き合う好機が来た」

こうした変化はファッション業界の構造変化にもつながる。屋内で過ごす時間が増えたことで夏物や冬物のアウターなどの購入頻度や金額も落ち込む。消費者の嗜好が割安で定番なもの、高い逸品ものに移行すれば、半年を1サイクルとしてトレンドを回し、売れ残った在庫を自ら値下げしてアウトレットやバーゲンで大量処分する、という業界の事業モデルは立ちゆかなくなる。

コロナ前から経営不振だった企業にとっては痛恨の一撃だ。レナウンは5月、民事再生手続きを申請。ブランド売却を経て破産手続きに移行する見通しだ。三陽商会ワールドなどの大手も今年、大規模リストラに踏み切った。川島氏は「業界が自己矛盾と向き合う時が来た」と指摘する。

もっとも、消費者が服を買わないわけではない。ずっと同じものを使い続けるのも味気ない。コロナ禍を経て、アパレル店舗は「電子商取引(EC)にはないような新しい発見や出会い、コミュニティーなどリアル店舗ならではの価値を提供していくことも重要」(川島氏)になりそうだ。

(小林宏行、松原礼奈、松本千恵、坂本佳乃子、河野舜)

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