「仕事着」はもう買わない 服の選び方コロナで変化

コロナ下で、よりカジュアルになったオフィス着(東京・渋谷)

コロナ下で、よりカジュアルになったオフィス着(東京・渋谷)

コロナ禍をきっかけに若い女性の通勤・オフィスでの装いが変化している。日経MJは都内に勤める20~30代女性約80人に洋服の買い方の変化を聞き取り調査した。見えてきたのは、買う場所・機会の変化だ。住宅地やネット上の店が選ばれ、買う枚数も減る傾向に。ファッション不況のなか、消費者に選ばれるブランドがより狭まり、業界の淘汰がさらに進む可能性もある。

■プライベートと共通に

「出勤機会が減って、顧客とのミーティングもオンラインになったので、オフィス用の服の購入も減ったかな」と話すのは東京都新宿区の企業に勤務する営業職の角田愛美さん(27)。これまで月2回は1回1万円程度、服を購入していたが、今は2カ月に1回1万円程度の支出だ。

通勤・勤務時のコーディネートも変わった。これまでは取引先と会うことも多く、黒か紺のジャケットにパンツ、パンプスというスタイルだった。しかし、コロナ後はカーディガンで出勤するなどカジュアル化。「プライベートで出かける時と同じになった」

人材情報管理サービスカオナビの「カオナビHRテクノロジー総研」調査によると、8月時点で23.2%の人が「リモートワーク」(出社との併用含む)をしている。通勤電車も以前ほど混んではいない。

通勤が減れば、オフィス着として必要となる枚数も減り、購入頻度も下がる。服のスタイルが変われば、買うブランド、買い場所も変わる。

■ネット通販に移行、「店には行かない」

経済産業省の商業動態統計によると、百貨店の衣料品販売(既存店ベース)は9月も前年同月比36.6%減と落ち込んだまま。ルミネの既存店売上高も9月は同29.3%減。オフィス街や都心部の店舗でオフィス着を買う機会は減っている。一方、住宅地にも店舗が多く、ベーシックな服が多いユニクロは10月の国内既存店売上高(ネット通販含む)は同16.2%増と好調だ。

ネット通販に移行したい人も多い。東京都渋谷区の企業に勤務する安藤綾さん(32)は、コロナ禍で初めて「ZOZOTOWN」や「ショップリスト」で服を購入、「めちゃくちゃ安くてびっくりした」と話す。

リアル店舗の苦戦を尻目に、ZOZOの7~9月の商品取扱高は前年同期比13.1%増えた。東京都新宿区の企業に勤める星めぐみさん(25)も「店にいくことがほとんどなくなった」。現在買うブランドは、「ジーユー」に加え、ネットを中心として販売するブランドの「fifth(フィフス)」や「coca(コカ)」だ。

東京・丸の内に勤務する女性会社員(32)がコロナ下で初めてネットで買ったのが韓国発でファッションやコスメを扱う通販サイト「DHOLIC(ディーホリック)」。ワンピースで3000円ほどと手ごろで、「気兼ねなく着倒せるし、気に入ったらもう一枚買っても気にならないほどの値段なのがいい」。

服のトレンドにも変化が。東京都渋谷区の企業に勤める風間玲さん(28)は「トレンド色の強いブランドだと来年以降は着られないかもしれないので、定番アイテムを買うようになった」。以前は輸入もののほか、「スナイデル」「ZARA」「ユニクロ」「フレイアイディー」などのブランドを買っていた。しかし現在は輸入ものと「ユニクロ」「ジーユー」だ。

東京都品川区の30代女性は緊急事態宣言が発令された時に断捨離を進めたが、捨てた服の大半が「ZARA」などのファストファッション。「あったら便利かなという基準で毎シーズン10万円買っていたが、結局本当に欲しいものではなかった」。今後は「ビームス」などのセレクトショップで買うつもりだという。

■買う枚数減らし高めの1着を

この10年成長が続いていたファストファッション市場はコロナ前から変調が指摘されていたが、コロナ禍がさらに後押しする可能性も出ている。

東京都中央区の企業に勤務する小池永莉さん(28)は「1着あたりの価格はむしろ高くなった」。コロナ前はとにかくバリエーションをそろえなければならないと思っていたが、オフィスに行く回数が減り、必要な枚数も減った。その結果、「『ステュディオス』や『ラコステ』で気分が上がる服を優先している」。

東京・丸の内に勤務する山脇一恵さん(30)も1着数千円の服を買っていたが、今は1着1万~2万円の長く着られるベーシックな「イネド」や「インディヴィ」を買うようになったという。

オフィス着への支出を減らした人も、1着あたりの支出は増やした人も、共通するのは、1万円弱ぐらいの価格帯は避けるようになったこと。デザインもベーシック志向が強い。都心の商業ビルに強いブランドやファストファッションで、オフィス着需要が強かったブランドの多くは、コロナで戦略の見直しを迫られているのは間違いない。

■ネット専業ブランドが存在感

コロナ禍で服を買う場所としてネット通販の存在感は高まった。実店舗を持たないネット専業のブランドが急速に売り上げを伸ばしている。今回、複数の女性が「コロナ後に買ったブランド」として名前を挙げたのが「fifth(フィフス)」。上品なテイストの服を低価格で扱い、消費者とSNS(交流サイト)を通じたコミュニケーションで成長してきた。

fifthは8月から期間限定のショールーミング店舗をオープンした(東京・渋谷)

fifthは8月から期間限定のショールーミング店舗をオープンした(東京・渋谷)

10月末時点の会員数は前年同月比5割増の227万人、21年1月期の売上高(受注ベース)は前期比4割増の63億円を見込む。顧客の中心は20代前半から40代の女性。コロナを経て新規顧客、特に40代の増加が顕著だという。

運営するコードシェア(東京・渋谷)の「インスタグラム」の公式アカウント登録者は約91万人にのぼる。発信力のあるインフルエンサーを使うだけでなく、同社の従業員も商品説明やコーディネートの紹介に携わり、投稿欄での消費者との交流にも力を入れる。

既存アパレルなどの実店舗で活躍してきた優秀な販売員も積極採用し、購入額が大きい優良顧客に特化した「ネット接客」も進める。

SNSを駆使するのはファンづくりのためだけではない。フィフスでは初回の仕入れを受注見込みの4割程度に抑えている。消費者の反応に応じて商品の追加生産などを決め、在庫のリスクを最小限に抑える。顧客アンケートやSNSなどを見ながら、次回の商品設計に反映する。

「fifth」はSNSの反響を見ながら次の商品企画を練る

「fifth」はSNSの反響を見ながら次の商品企画を練る

同社は期間限定で東京・原宿に試着専用の店舗を設けている。購入はあくまでもネット経由とし、顧客との新しい関係づくりを模索する。

コードシェアの江島晋一社長は「コロナで動画配信を見る人が増えた」と話す。今後は公式ユーチューブチャンネルなどを拡充するつもりだ。

同様にコロナ禍で存在感を高めているのが、韓国発のサイト「DHOLIC(ディーホリック)」だ。運営するDHOLIC FBL(東京・渋谷)によると、「足元のユーザー数は前年同期に比べ45%増加した」という。

■ファッション業界の「矛盾」露呈

オフィス着はここ数年、働き方改革の流れをうけて公私の服装の区別が薄らいできていた。これがコロナ禍で一気に加速した、と指摘するのは伊藤忠ファッションシステムが運営するifs未来研究所の川島蓉子所長だ。「漫然と職場のドレスコードに従うのでなく、一人一人がどんな装いをしたいのかファッションと向き合う好機が来た」

こうした変化はファッション業界の構造変化にもつながる。屋内で過ごす時間が増えたことで夏物や冬物のアウターなどの購入頻度や金額も落ち込む。消費者の嗜好が割安で定番なもの、高い逸品ものに移行すれば、半年を1サイクルとしてトレンドを回し、売れ残った在庫を自ら値下げしてアウトレットやバーゲンで大量処分する、という業界の事業モデルは立ちゆかなくなる。

コロナ前から経営不振だった企業にとっては痛恨の一撃だ。レナウンは5月、民事再生手続きを申請。ブランド売却を経て破産手続きに移行する見通しだ。三陽商会ワールドなどの大手も今年、大規模リストラに踏み切った。川島氏は「業界が自己矛盾と向き合う時が来た」と指摘する。

もっとも、消費者が服を買わないわけではない。ずっと同じものを使い続けるのも味気ない。コロナ禍を経て、アパレル店舗は「電子商取引(EC)にはないような新しい発見や出会い、コミュニティーなどリアル店舗ならではの価値を提供していくことも重要」(川島氏)になりそうだ。

(小林宏行、松原礼奈、松本千恵、坂本佳乃子、河野舜)

バイデン氏、閣僚人事着手 国務長官候補にライス氏ら

スーザン・ライス元国連大使(19年4月、ニューヨーク市内)=ロイター

スーザン・ライス元国連大使(19年4月、ニューヨーク市内)=ロイター

【ニューヨーク=宮本岳則】米大統領選で当選確実となった民主党候補のジョー・バイデン前副大統領は、閣僚人事を含めた新政権構想に着手する。全米で新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、景気下支えが優先課題の1つとなるだけに、経済政策チームの顔ぶれは焦点だ。対中国政策の要となる外交・安全保障担当閣僚も早急に固めるとみられる。

バイデン氏はすでに政権移行チームのウェブサイトを立ち上げている。共和党現職のトランプ大統領が敗北を認めなくても、国務や国防、財務、司法といった重要閣僚の人事を中心に選定を進めるとみられる。「感謝祭の祝日(11月26日)のあたりから顔ぶれが公表されていくだろう」。外交や安保を専門とする米調査会社PTBグローバル・アドバイザーズのポール・ゴールドスタイン氏は予想する。

バイデン陣営は最も多様性に富んだ政権を目指すと公言している。クリントン政権やオバマ政権を要職で支えた人材に加え、民主党内の左派や、共和党からも登用する可能性がささやかれる。団結や融和を演出するためだ。重要閣僚には女性候補者の名前が多数挙がっている。

FRBのブレイナード理事(左)とパウエル議長(19年1月、米シカゴ)=ロイター

FRBのブレイナード理事(左)とパウエル議長(19年1月、米シカゴ)=ロイター

新型コロナ対策が次期政権の喫緊の課題となる。経済政策の司令塔である財務長官候補には、米連邦準備理事会(FRB)のラエル・ブレイナード理事の名前が広く取り沙汰される。オバマ前政権時代の2009年にティモシー・ガイトナー財務長官の顧問として金融危機に対応し、その後財務次官についた。コロナ危機ではFRB側の担当者として、企業の資金繰りを支える融資プログラム策定に関与した。

対中関係や同盟関係の立て直しなど外交でも難題が山積みだ。外交責任者の国務長官には、オバマ前大統領の腹心だったスーザン・ライス元国連大使や、長年バイデン氏の外交顧問を務めるトニー・ブリンケン元米国務副長官らの名前が挙がる。オバマ政権で大統領補佐官を務めていたライス氏は、米中で世界を仕切る「新しい大国間関係」という中国の主張に理解を示し、日本国内で波紋を呼んだ。ブリンケン氏は北朝鮮に厳しい姿勢で知られる。

日本にとっては外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で相手方の一人となる国防長官人事も重要だ。筆頭候補にはミシェル・フロノイ元国防次官の名前が挙がる。同氏は6月、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」(電子版)に「アジアでの戦争を防ぐ方法」と題した論文を発表した。中国・人民解放軍の能力向上に危機感を示し、米軍に新技術への投資を提言した。タイ系米国人でイラク戦争に従軍経験もあるタミー・ダックワース上院議員も候補者の一人とされる。

バイデン氏の選挙集会に駆けつけたブティジェッジ氏(右)(20年3月、テキサス州)=ロイター

バイデン氏の選挙集会に駆けつけたブティジェッジ氏(右)(20年3月、テキサス州)=ロイター

トランプ政権は、気候変動問題の解決を目指す「パリ協定」からの離脱を国連に通告するなど、多国間主義に背を向けてきた。一方、バイデン氏は国際協調路線への回帰を志向しており、国連大使人事にも注目が集まる。同性愛者を公言するピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長は有力候補の一人だ。バイデン氏と争った民主党の大統領候補指名レースで善戦し、その名が知られた。

中道派と左派の融和が課題の民主党にとって、左派の人事処遇は焦点だ。バイデン氏と最後まで指名を争った左派の重鎮、バーニー・サンダース上院議員は政権入りに関心があると報じられており、労働長官候補の一人に名前が挙がる。左派の中にはエリザベス・ウォーレン上院議員を財務長官や司法長官など重要閣僚で起用するよう求める声がある。もっとも、承認権限を持つ米上院で、共和党が議席数の過半数を維持した場合、任命を巡って紛糾する可能性がある。

ハリス氏、「黒人・女性」で初の副大統領に「ガラスの天井壊した」と祝福の声

ハリス氏は当選を確実にしたバイデン氏に電話する様子を撮影した動画をツイッターに投稿した。

ハリス氏は当選を確実にしたバイデン氏に電話する様子を撮影した動画をツイッターに投稿した。

【シリコンバレー=奥平和行】米大統領選で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の当選が確実になり、カマラ・ハリス上院議員(56)が女性として初めての副大統領に就任することになった。黒人の副大統領も初めて。支持者などから女性の活躍を阻む「ガラスの天井」を壊したと歓迎する声があがった。

「やった!」。ハリス氏は7日、バイデン氏の当選が確実になるとツイッターに短いメッセージを投稿した。添付した動画にはバイデン氏に電話をかけ「次の大統領になるのね」と笑顔で話しかける動画も添付した。

ハリス氏はジャマイカ系の父親とインド系の母親を持ち、1964年にカリフォルニア州オークランド市で生まれた。検察官出身で、地元カリフォルニア州の司法長官を経て2016年に上院選で初当選した。米国の二大政党における女性の副大統領候補は08年に共和党がサラ・ペイリン元アラスカ州知事を指名して以来で、当選は初めてになる。

女性の地位向上活動に取り組んでいる米フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は7日、「231年の歴史で初めて移民の娘で黒人・南アジア人系の米国人が副大統領に就く」とコメントした。「ガラスの天井やリーダーシップに関する規範を壊した」と祝意を示した。

米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏の夫人で慈善活動家のローリーン・ジョブズ氏も7日、ツイッターを通じて「民主主義と共通の人間性、そしてガラスの天井が壊れたことを祝福する」と述べた。

首都ワシントンのホワイトハウス前では、ハリス氏の母校であるハワード大の卒業生の黒人女性、シュリータ・ターナーさん(53)が同氏のプラカードを掲げた。「とても誇りに思う。ハリス氏は素晴らしい副大統領になる」と祝福した。

ハリス氏の父親、ドナルド・ハリス氏の出身国、ジャマイカのホルネス首相は7日、ツイッターに祝福のコメントを投稿した。「女性として米国の副大統領に初めて就くハリス氏がジャマイカの遺産を引き継いでいることを誇りに思う」「世界中の女性の勝利だ」などと指摘した。

母親の祖国であるインドのモディ首相もツイッターを通じて祝意を示し、「すべてのインド系米国人の誇りだ」と述べた。また「あなたの支援とリーダーシップにより米印関係が強固になると確信している」と期待を示した。

オープンイノベーションで生み出す 変化を乗り切る未来の働き方

東京海上日動火災保険 東京自動車営業第4部中島 真紀さん

新型コロナウイルスの流行に見舞われた2020年。東京海上日動火災保険の中島真紀さん(36)は営業最前線の部署で、2歳の長女の子育てに追われながら新たな施策に挑戦している。環境変化に負けない仕事ぶりを支えるのは、同じ会社で奮闘する夫の謙一さん(38)とつくり上げてきた、対話でアイデアを生み出して課題を乗り越えるスタイル。そんな夫婦の「オープンイノベーション」で、キャリアと家庭、どちらも大切にしていく働き方を追求している。

新たなコミュニケーションを模索

「ご提案を採用いただきました」「すごい!」「さっき、こんなことがあったんだけど――」。ぽんぽんと言葉が飛び交うのは職場のフロアではなく、パソコン画面。真紀さんが働く東京自動車営業第4部で広域の自動車ディーラーを担当するチームでは、最近導入されたオンラインのチャットツールが大活躍だ。在宅勤務を組み合わせた働き方でなかなか全員がそろわない状況が続くが、「離れていても同じフロアにいるような会話がまたできるようになり、一体感を感じています」と真紀さんは笑顔を見せる。

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中島真紀さんは子育て中だからと制限を設けずに挑戦する道を進む

2020年は春先から、新型コロナウイルス感染症の拡大で真紀さんのチームも大きな影響を受けた。ちょうど自動車保険の満期を迎えるお客様の契約更新に関する新たなプロジェクトを進めていた時期。担当しているディーラーが行っている電話中心のアプローチから、車検などで顧客がディーラーに来店した機会に対面でより良い提案をしてもらう取り組みで、チームを牽引したのは真紀さんだ。

担当する広域ディーラーは4都県に115の店舗を抱え、社内の他部店の担当者数十人が出入りする大所帯。新たな保険の提案プロセスを定着させたくても、関係者の足並みをそろえるのは簡単にはいかなかった。真紀さんは昨年、ディーラーにヒアリングを重ね、離れた他部店の担当者と定期的なオンライン会議を通してディーラーの思いを共有することで、関係者を一つの「チーム」にしていくことに取り組んだ。更新手続きはどうあるべきか、何度も話し合って目指す方向を合わせていき、一丸となって来店時の提案の方法や内容の改善を進めていた最中のコロナ禍だった。

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新型コロナウイルス流行の試練を乗り越えようと知恵を絞る

感染対策で人と人との接触は激減し、対面を前提とする戦略は見直しを余儀なくされた。「ここまでやってきたことが元に戻ってしまった」――。落胆は大きかったが、切り替えは早かった。今、真紀さんが取り組むのは、オンライン会議システムを活用した保険販売の研修の運営だ。感染対策で集合研修が難しいというディーラーの課題をキャッチ。再び関係者とオンラインのミーティングで、どうしたらディーラーの課題を解決できるかを議論。オンラインを活用してきたノウハウを駆使し、ウェブ講座と店舗での事前・事後の課題を組み合わせた実践的なカリキュラムを考案した。従来、店舗ごとに開催していた研修を、複数店舗をリモートでつなぎ、ロールプレイングを中心に双方のコミュニケーションができる内容に。真紀さんのもとには「楽しく、成長を実感できる」との声が届いているという。

自らを「転んでもただでは起きない」という真紀さん。昨年から今年にかけては、業務だけでなくプライベートでも大きな変化があった。約9カ月の育児休業を終えて2019年4月に職場復帰。子育てと両立しやすい時短勤務の活用や、事務担当として復職するという選択肢もあった。けれど、自分の描きたいキャリアを重ねるためには営業担当に挑戦すべきではないか――。真紀さんの出した結論は、従来の枠組みのなかで役割を選ぶのではなく、自分の強みを生かせる働き方に挑戦すること。それを実現したのは、夫婦での度重なる「会議」でのことだった。

ダイニングで「会議」

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自分の幸せと家族の幸せ、夢や「ありたい姿」を確かめ合い、「どうしたら実現できるか」を考える

産休前まで「やるからには全力で、そして楽しく」をモットーに、目いっぱい仕事をしてきた。育児休業のあいだは毎日、一日中子どもと向き合うなかで、母親として仕事をセーブしないといけないのではないかと心は揺れた。ディーラーの店舗を車で駆け回る。会食などの場でディーラーの課題や思いを丁寧に聞き取る。働く時間に制限のある育児中には、営業担当は難しい業務だと思われてきた。一方、自分のキャリアを考えたとき、かつて経験した事務担当者として再び働く姿も思い描けなかった。悩んだ末、「誰かが決めた役割に合わせるのではなく、自分ならではの役割をつくり出すべきではないか」と思い始めた。

復職が迫るなか、長女が寝た後、静かな時間が訪れると「よし、いまから話し合おう」。夫の謙一さんと何度もダイニングで向かい合い、話し合いを重ねた。一人の人間として、将来どうなりたいか。仕事で何を成し遂げたいか。お互いのキャリアビジョンを考え、真紀さんがフルタイムで復職した場合のシミュレーション。まるで仕事の会議のように客観的に課題を洗い出し、一つ一つ解決方法を考えていった。結果、謙一さんが朝の家事や子どもの世話を担当すること、早帰りの曜日を設けることなど具体的な対策が決まっていった。

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謙一さんは社内のセミナーで「パパ目線の働き方」を発信

真紀さんはこの話し合いを踏まえ、マネージャーと面談に臨んだ。フルタイムでどんな働き方ができるか。自身が培ってきた経験や強みを生かしてチームに貢献したいこと、復職に向けて整えている家庭内の態勢、将来めざす姿――。思いを伝え、これまでのように営業担当か、事務担当かを選ぶのではなく、役割の枠を超えた新たな働き方に挑戦することが決まる。

これは謙一さんにも挑戦だった。謙一さんは営業企画部・マーケティング室に所属し、保険商品のマーケティング戦略などを会社に提言していくことが主な業務。顧客インタビューなどの調査を企画し、結果を分析して提案資料に落とし込む。定型的な業務ではないため、なかなか計画的に業務を進めるのが難しく、育児とどのように両立していくか頭を悩ませた。

以前から、真紀さんが出産後も復職して仕事を頑張りたいことはわかっていたし、「仕事も育児も女性が思い描くかたちで実現できればいいのでは」と感じていた。長女が生まれ、子育ての面白さを知り、しっかり携わりたい気持ちも芽生えていた。謙一さんもマネージャーや同僚に自らの家庭環境や思いを伝え、ことあるごとに子育て中の働き方を話題にしたり、自宅に招いて子どもの様子を見せたり。情報発信や対話を繰り返し、周囲メンバーに理解してもらえるよう工夫を重ねた。

2019年4月、ついに二人三脚の両立生活が始まった。家事や子どもの世話は、事前にすり合わせた分担体制で。以前より仕事の時間に制限ができる部分は、工夫を凝らして移動中などスキマ時間の活用や、長女が寝た後に仕事のアイデア交換をするなど、夫婦のコミュニケーションの一環として楽しみながらカバーをめざした。事前の徹底した「会議」が奏功し、新生活はスムーズに回っていった。それは、コロナ禍の中でも混乱することはなかったと2人が振り返るほどだ。

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洗濯、皿洗い、長女の食事の手伝い・・・両立生活で家事・育児スキルはめきめきと伸びた

「キャリア道」で一歩前へ

子育てと両立した、フルタイムでの仕事。新たな働き方で走り始めた真紀さんにもう一つの転機が訪れる。自動車ディーラーを担当する営業部門の女性社員を対象として開催された「キャリア道(みち)」という社内研修だ。ロジカルシンキングやファシリテーション、プレゼンテーションなどのスキルを学び、組織をまとめるマネージャーのあり方や、マネージャーをめざしていくための課題や解決策などを考えていく。研修当日だけでなく、事前の課題図書やリポートに取り組み、現役マネージャーと幾度も意見交換していくハードな内容。そこでわかったのは、「夜間や休日でも何かあればいつでも対応するというマネージャーの働き方のイメージ」が、絶対ではないということだ。育休から復職するときに悩んだ、営業担当か事務担当かという二択がそうだったように。

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「新たなマネジャー像」を思い描く

「自分にもできるかもしれない」。真紀さんが就職活動で東京海上日動を選んだのは、結婚や出産などのライフイベントがあっても働きやすい会社を探していたから。就活当初は他業界の選考を受けていたが、そんな理想的な会社が見つからなかったなか、たまたま大学のゼミの会合でOGである東京海上日動の社員と出会い、先輩女性が生き生きと活躍している様子にひかれた。「将来はマネージャーとしてメンバーの働きがいや成長を後押ししたい」。それが今、真紀さんがめざす将来の姿だ。

謙一さんのキャリアビジョンもそこに重なり合う。「限られた時間をやりくりするのは大変だが、長い時間働けば良い仕事ができる、というのは未来の働き方ではないはず」。プライベートを大切にし、仕事のアウトプットも落とさない働き方を実践できれば「周囲のメンバーの働き方変革にも新しい風を吹き込める」(謙一さん)。

仕事と子育ての両立。新型コロナの混乱。未知の課題を徹底した対話と新たなアイデアで乗り切ってきた。めざす未来の働き方をかなえるため、きょうも2人の会話は弾む。

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これからも対話が2人の力になる

PROFILE中島真紀(なかじま・まき) 2006年4月入社。営業部門を経て、営業開発部で業務提携や営業企画・支援の業務に携わる。2014年4月、千葉自動車営業部に異動、営業支援チームを立ち上げる。2017年10月から現職。2018年7月に長女を出産。職場復帰してからは、週末に家族3人で1~2時間かけて公園を散歩しながらおしゃべりするのが何より大切な時間。 東京都出身。 

中島謙一(なかじま・けんいち) 2004年4月入社。栃木支店・宇都宮東支社で営業を担当したのち、医療福祉法人部、営業開発部を経て2015年6月、IT企画部。2018年4月から営業企画部マーケティング室でマーケティング戦略の企画立案を担当。日曜午前、長女の習い事のスイミングでは一緒に泳いでコミュニケーションを楽しみつつ、リフレッシュしている。埼玉県出身。

余裕のない日本、エビデンスに基づいた政治を

小林喜光 三菱ケミカルホールディングス会長

新型コロナウイルス対策に追われた今夏の終わりに突然訪れた安倍晋三前首相の辞任には、個人的にも感じ入るものがありましたし、一抹の寂しさを覚えました。

7年8カ月に及んだ第二次安倍政権の初期から、経済財政諮問会議や産業競争力会議といった政府の会議体に民間議員として参加しましたし、2015年から4年間は経済同友会の代表幹事として、豊かな経済社会実現のため、積極的に政策提言も行ってきました。現在も規制改革推進会議の議長や総合科学技術・イノベーション会議の議員を務めています。アベノミクスという大胆な経済政策、あるいは女性活躍や働き方改革の推進といった取り組みに象徴されるように、安倍さんの変革への強い意志によって動き出したものは少なくありません。成長戦略など、すべてが狙い通りの結果を得られた訳ではないにせよ、全力で仕事をした内閣だったことは間違いありません。

これまで数回、安倍さんとゴルフを共にする機会がありました。一国の首相ですから、身辺を警護する人が常に周りにいる訳ですが、皆さんにプレーの合間の休憩中には「ジュースを飲みなよ」と声をかけるなど気配りを欠かしませんでした。半面、プレー中でも日本の安全保障について熱く語る姿は印象的でした。ボールが右に飛べば右翼、左に曲げれば左翼だと冗談を言い合いながらも、心の奥では政治と向き合う真摯な気持ちは消えることはないようでした。

記者会見で辞任の意向を表明する安倍首相(8月28日、首相官邸)

記者会見で辞任の意向を表明する安倍首相(8月28日、首相官邸)

■成長戦略は道半ばに

リーマン・ショックや東日本大震災によって沈没しかかっていた日本経済が、安倍政権下での経済政策「アベノミクス」によって持ち直したことは確かです。大規模な金融緩和や財政出動など一連の施策により、円高、高い法人税率、経済連携協定の遅れなどいわゆる「六重苦」が相当程度解消され、企業の業績や雇用環境の改善につながり、景気回復に道筋をつけました。大企業の収益が増え、賃上げや設備投資を通じて中小企業や地方にも富がしたたり落ちる「トリクルダウン」が理想通り十分に実現できたとはいいきれませんが、インバウンド(訪日外国人)需要の拡大による特に地方での消費増など一定の成果があったとみていいでしょう。

しかし、アベノミクスの第三の矢である成長戦略、その重要な要素である企業の労働生産性の向上については、実現できているとは言えません。DX(デジタルトランスフォーメーション)導入の動きは欧米や中国に大きく遅れたままです。日本企業の大半が世界で戦っていくには規模が小さすぎるのに、再編がなされず、収益性の低い「ゾンビ企業」が生き残って新陳代謝が進みません。アベノミクスの金融政策、財政政策で経済が一息ついている間に、企業は「ポートフォリオトランスフォーメーション」を加速して、将来に向けて潜在的な成長力を高めるべきでしたが、そのシナリオは実現しませんでした。それどころかアベノミクスの成果についてもコロナ禍で剥落しかかっています。

財政赤字の拡大という代償も大きかった。歳出と税収の差を示す折れ線グラフは年ごとに徐々に間隔が広がって「ワニの口」と言われていましたが、今年はコロナ対策の大型補正を組んだことにより口が上にめくれてしまいました。安倍政権の初期に2020年度としていた基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化目標は、18年には25年度に先送りされ、コロナ対策の財源を踏まえた直近の内閣府の試算によれば、名目成長率3%、実質成長率2%という高い国内総生産(GDP)の成長を仮定しても29年度にずれ込むそうです。まずコロナ禍を押さえ込むのが最優先ですから、予算措置自体はやむを得ませんが、黒字化への道筋について改めて考えを整理する必要があるでしょう。

■省庁のデジタル化は急務

菅義偉首相を待ち受ける難題は山積しています。コロナの押さえ込みが優先課題ですが、先鋭化した米中の新しい冷戦構造の中での日本の立ち位置も重要です。米国は、テクノロジー分野、例えば次世代通信規格「5G」の構築でファーウェイなど中国企業を完全に排除すべく圧力を強めていますが、どこまで追随するのか。安全保障で米国との同盟を重視しつつ、日本としては隣国である中国と縁を切る訳にはいきません。環境や医療といった人類共通の課題については互いにメリットがある訳ですから、こうした分野で中国との関係を構築することも必要でしょう。ロシアや北朝鮮、韓国との外交問題も含め、複雑化する国際関係を読み解き、その中で存在感を高め、いかに国益を確保していくか、菅政権の外交政策が問われています。

新型コロナ対策の事務処理でもデジタル化の遅れがあらわになった(特別定額給付金の電話相談窓口)

新型コロナ対策の事務処理でもデジタル化の遅れがあらわになった(特別定額給付金の電話相談窓口)

国内に目を向ければ、先に触れた労働生産性と関係しますが、日本のアナログ文化を打破しなければなりません。菅首相は行政のデジタル化を推進する「デジタル庁」を21年に新設する方針を掲げました。

新型コロナ対応で明らかになった行政手続きの非効率さは本当に深刻です。特別定額給付金は、マイナンバーカードを利用したオンライン申請も可能でしたが、普及率が低く、多くの人が郵送での対応となって、給付が大幅に遅れました。各省庁のシステムも、そもそもデジタル化が遅れていることに加え、縦割り主義によって省庁間の連携が進んでいません。

一例ですが、オンラインで会議を開く場合も、ある省庁はZoomを使い、別の省庁はWebex、TeamsやSkypeを使うなどまちまちです。各省庁がシステムをバラバラに設計、調達するため、それぞれが保有しているデータをスムーズに共有できず、省庁間の調整が必要な政策の論議が遅々として進まない。

デジタル庁が司令塔となって、各省庁や地方自治体等の間でスムーズにデータをやりとりできるようにし、行政手続き全般の迅速化を図って頂きたいと思います。豊かで安全な社会を構築するためには、デジタル技術とデータ活用が欠かせません。

■科学の知見で政策立案

これからの政治に必要なのはサイエンス(科学)の素養だと思います。21世紀は、人工知能(AI)や5G、バイオ、量子コンピューティングなどの時代です。政策を立案する政治家や官僚がこうした将来の科学技術に対する知見を深める必要があります。正しい知識や理解がなければ必要な政策も生まれないし、スピーディーで的確な政治判断もできません。

規制改革推進会議であいさつする菅首相(10月7日、首相官邸、左は小林氏)

規制改革推進会議であいさつする菅首相(10月7日、首相官邸、左は小林氏)

特に環境問題、それにひもづくエネルギー政策など人類にとって避けては通れない社会課題に対して、定性的な感情論ではなく、サイエンスリテラシーを持った人が、データ、エビデンス(証拠)をベースにした冷静な政策決定を行う必要があります。いわゆる「EBPM(証拠に基づく政策立案)」と呼ばれる手法です。あるいはもっとその考えを進化させて、科学的見地に裏付けられた予測に基づく政策作り、すなわち「FBPM(Forecast-based Policy Making)」をとり入れていくことも重要となることでしょう。

菅義偉首相が2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言しましたが、日本の方向性を示すものとして歓迎したい。今後の日本のエネルギーミックスのあり方は、経済や国民の生活を大きく変える可能性があり、まさに証拠と科学に基づく政策が求められます。東日本大震災での福島第一原発の事故もあり、原子力発電に対する国民の忌避感は非常に大きい。その声は尊重しなければならないですし、政策面でも脱原発を掲げるグループもあります。太陽光や風力などで電力をすべて賄えれば理想的ですが、国土の狭い日本で配送電の設備投資を含めたコストも踏まえ、近々すべて再生可能エネルギーに移行できるかわかりません。

原子力についても、事故で発生しうる損害も含めて中立的にコストを算出してフェアに比較すべきです。その結果として、新設はしないとしても、これから20~30年稼働する寿命がある既存の設備があるならば、安全性を担保した上で稼働を再開するという選択肢もあるかもしれません。

重要な政策だからこそ、根拠をもって科学的に判断する。ムードで決めれば、過去と同じ過ちを繰り返すことになります。しかしもう過ちが許されるほどの余裕は日本にはないのです。

働く女性調査、約70%が幹部昇進望まず リンクトイン調べ

ビジネスSNSのリンクトインは日本で働く女性750人を対象に意識調査を行った。キャリア展開の展望について、将来幹部職に昇進したいと思う人は7%にとどまり、約70%が「現状維持」か「幹部職にはなりたくない」と答えた。育児などとの両立に向けて、職場のサポート不足が影響しているもようだ。

自分が所属する組織について、回答者の47%が「男性よりも女性が多い」としている。一方で、上級管理職以上の役職者における女性の割合が半分以上なのは、14%にとどまった。

女性の仕事の機会を妨げている要因に「家庭生活とのバランス」を挙げる人が69%おり、家庭内や組織のサポート不足を訴える人も多い。

政府は女性活躍を推進するものの、世界経済フォーラムが男女平等の度合いを調べた「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は153カ国のうち121位。

リンクトインの村上臣日本代表は「日本は海外よりも、女性が社会参加を諦めてしまうことが多い」と指摘する。

半沢直樹と銀証の垣根 

金融界の意見を二分してきたあの議論が、またぞろ浮上している。銀行と証券会社のファイアウオール(垣根)規制の是非をめぐる議論だ。

銀行界は、銀証ファイアウオール規制の緩和をめざし攻勢をかけている

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銀行界は、銀証ファイアウオール規制の緩和をめざし攻勢をかけている

政府は成長戦略に検討方針を盛り込み、金融庁の金融審議会で議論が進む。1993年の相互参入解禁に始まり、段階的に垣根は取り払われてきた。今回はほぼ最後の垣根といえる顧客情報の共有規制について議論されている。

そんな現実とシンクロするように規制の是非を考えさせるドラマが放映された。大ヒットした「半沢直樹」だ。

前半部分では、銀行から証券子会社に出向していた半沢が、顧客の「電脳雑技集団」による買収案件をめぐって親銀行の伊佐山泰二部長と対立する。部下が買収の情報を伊佐山に漏らし、半沢は親銀行に案件を奪われてしまう。

部下の行動は、顧客の同意がない情報の共有を禁じる今の規制ではアウトだろう。

一方、半沢と伊佐山が協力してくれたほうが電脳雑技集団は助かったであろう。金融審では、情報共有の完全解禁を求める銀行界が銀証一体の業務運営こそが顧客企業の利益になると主張している。

だが、規制緩和派の主張には銀証の利害が構造的に対立してしまう局面への目配りがない。規制の必要性を考える際には、ドラマの後半に登場する「帝国航空」のモデルとみられる日本航空(JAL)の教訓を思い出すべきだ。

JALは2006年に公募増資を実施した。銀行傘下にない野村証券は引き受けを断り、共同引受主幹事を務めたのは、当時「投資銀行宣言」を掲げて証券ビジネスの拡大にまい進していた主力銀行のグループ証券だった。それでもJALは再建できず、倒産で株券は紙くずになった。

かように、経営不振企業の資金調達の際に銀行と証券の利益相反は顕在化する。金融審の議論には「投資家保護」の視点がすっぽり抜け落ちている点を危惧する。(井蛙)

広がるオンライン・ハラスメント、若い女性の過半経験

SNS(交流サイト)上のひぼう中傷や嫌がらせなどの「オンライン・ハラスメント」が日本の若年女性の間にも広がっている。自分自身や知り合いの女性の経験として「とても頻繁」「頻繁」と答える人が51%に達した。

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国際非政府組織(NGO)プラン・インターナショナルが15~24歳の女性を対象に調査し、日本では約500人が回答した。経験したハラスメントの内容は「罵り言葉および侮辱的な言葉」が65%と最多だった。「セクハラ」が61%と続き、「体形批判」や「意図的に恥をかかせること」もそれぞれ59%と多かった。加害者は「つながりのない人」が25%で「知り合い」(23%)を上回る。被害による影響は「精神的・感情的ストレス」を挙げる人が30%と最も多かった。

ネット社会の負の面といえる。だれが対策を講じるべきか。41%が「SNS運営会社」と答え、「目撃したほかのSNSユーザー」(21%)や「警察」(18%)などを上回った。自身の対処法として「アカウントを非公開にし、セキュリティー設定を強化する」と答えた人も39%いた。

(西村正巳)

ニーズ高まる法務分野 弁護士資格ない女性も力を発揮

中国の法律について話す三井物産法務部の岩本真利亜さん(東京都千代田区)

中国の法律について話す三井物産法務部の岩本真利亜さん(東京都千代田区)

企業の法務部で女性社員の比率が高まっている。2000年代に法科大学院制度が導入されて女性の社内弁護士が増えた。活躍するロールモデルが現れ、資格がない女性をひきつけている。それまでの実務経験が生かしやすい点も働きがいにつながっているようだ。

■実務経験生かして法務部でキャリア積む

総合商社の法務部は弁護士資格を持つ社員が多数在籍する。岩本真利亜さんは三井物産法務部で室長補佐としてチームをまとめる。弁護士の部下も抱えるが、岩本さん自身は中国学科の出身で弁護士ではない。営業に関心はあったが、より専門性が磨ける法務に魅力を感じ、法務部のキャリアを選んだ。

法務部で中国法を専門とする社員は岩本さんを含め2人だけ。中国への語学留学や赴任の機会を通じ、中国法の実務への理解を深めたのが強みだ。「債権回収などの案件に直面して生きた知識を得たことで、有資格者とも議論できるようになった」と話す。

同社法務部の女性社員は35人で全体の半数を占める。管理職でも半数近くおり、「全社平均と比べても多い」(同社)。私生活を含めて女性に相談しやすい職場環境が女性の能力発揮につながっている。

法務部の業務は株主総会の運営支援や出資、買収の契約書確認など多岐にわたる。だが、何年かで方法が大きく変わるわけではない。「基本の土台が変わらないので、産育休明けの社員も戻りやすい」(同社)という。

コンサルティングサービスのデロイトトーマツグループで秘書を務める望月恵さんは、昨夏から法務部を兼務する。秘書としては役員のスケジュール管理や経費精算などを主に担う。「高度な専門性を身につけて、より多くの人をサポートしたい」と考えていたころ、法務ポストに空きが出たことを知り、応募した。法律事務所で秘書経験があったことも後押しした。

デロイトトーマツグループの望月恵さんは秘書と法務部を兼務している

デロイトトーマツグループの望月恵さんは秘書と法務部を兼務している

望月さんの業務の8割を法務が占める。コロナ下で秘書として役員との対面の機会も減り、より法務に専念しやすくなった。法務部では書類作成や書面確認など、通信インフラさえしっかりしていれば自宅で進められる仕事が多い。望月さんも企業との監査契約の確認作業をするのが主な業務となった。

■女性弁護士増加に伴い、資格ない女性も法務に注目

商事法務研究会(東京・中央)などの調査によると、法務部門における女性比率は15年時点で29.9%と、1990年から約2倍に増えた。けん引するのは社内弁護士の存在だ。日本組織内弁護士協会(JILA)の調べでは、会員弁護士の4割を女性が占める。04年に法科大学院が導入され、司法試験に合格する女性が増えたことが背景にある。

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近年は弁護士や法科大学院の出身者以外でも女性が活躍している。法務人材の転職支援を手掛ける企業法務革新基盤(東京・千代田)によると、弁護士資格を持たずに法務部で働く人のなかで女性は90年代に10%未満だったが、今は30%台にまで上昇しているという。

野村慧・最高経営責任者(CEO)は「女性社員には専門性がないと生き残れないという危機感が強い」と指摘。「スキルの成果が明確に出やすい法務への関心が高まっている」と話す。

■国の競争力強化へ 求められる法務人材の多様性

LINEの山田美央さんは18年、自社メディアの企画・編集の部署から法務室に移った。法学部の出身だが、いったん編集者などとして働き、幅広いメディアを提供するLINEに転職。コンテンツの配信にあたり、著作権の保護などで法務室と接点を持った。事業を後方から支える法務に興味が湧き、社内公募制度を使って手を挙げた。

「現場の経験があるからこそどういう法的な落とし穴があるのかは、法務室の社員よりも肌感覚でわかる」。これまでのキャリアが生きていると実感する。

現在は電子マンガやゲームなどのサービスを提供する際の契約書の作成や、現場からの著作権管理などの法律相談の対応が主な業務だ。法務の仕事は性差を感じることが少ないという。「弁護士資格のある女性社員の働き方を手本にしたい」と意欲をにじませる。

SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みや次世代技術のルールづくりなどで、法務の仕事の重要性は高まっている。経済産業省は昨年11月、競争力強化に向けた法務機能のあり方について報告書をまとめた。女性や外国人らを積極的に活用することの必要性を指摘。各業界で活躍している女性の法務担当者をモデルとして紹介した。

法務部は従来、ほかの部署との交流が少ない「たこつぼ」のようなキャリアになりがちだった。多様な経歴を抱えた女性社員が増えることで、法務部門の活性化につながる面もあるようだ。■書籍類の電子化 在宅勤務促す
 書棚の六法全書と首っ引きで書面を作成――法務部にそんなイメージがあるとしたら、それは過去のものだ。今は大半の書籍類で電子化が進む。自宅でもパソコンで必要な資料などを見られるようになった。4月の緊急事態宣言を受けてJILAが会員である社内弁護士の勤務状況を調べたところ、在宅勤務者が9割に上った。
 法務部の仕事は社内のやりとりが中心であり、在宅勤務との親和性は高いようだ。小さな子供を育てる人にも働きやすい面があるのだろう。三井物産の岩本さんは毎日、在宅勤務中の部下とコミュニケーションを取るよう心がけているという。法務で実力を発揮する女性がさらに増えれば、社内に女性活躍推進の好循環が広がりそうだ。(世瀬周一郎)

不妊治療の保険適用・オンライン教育、前例打破に壁

始動 菅予算(2)

不妊治療の保険適用の検討が進む(クリニックで説明を受ける三原じゅん子厚労副大臣ら)

不妊治療の保険適用の検討が進む(クリニックで説明を受ける三原じゅん子厚労副大臣ら)

「4連休に時間をとれませんか」。9月中旬、都内で不妊治療クリニックを開業する医師、杉山力一の電話が鳴った。相手は首相の菅義偉。会って話すのは菅が官房長官時代に勉強会で連絡先を交換して以来だった。

「助成金を拡充すれば出生数を年間1万人以上増やせる」。杉山が独自の試算で進言すると菅は「保険適用する。制度が問題なら変えればいい」と応じた。菅が首相の立場になった今、議論の進み方は早かった。

菅の肝煎りになった不妊治療は2021年度の予算編成でも重点項目だ。「730万円の制限をなくす」。自民党の議連はたたき台で、助成を受ける際の夫婦合算の所得制限を撤廃し、1回の助成額は15万円から30万円に倍増することなどを盛り込んだ。必要な予算は679億円と4倍超に膨らんだ。

助成からさらに踏み込んで保険適用の実現も目指すが、一筋縄ではいかない。「どこまで保険を広げるのか」。8日、横浜市のクリニックを視察した厚労副大臣の三原じゅん子らに、院長の貝嶋弘恒は問いかけた。

保険適用は全国で同水準の医療を受けられることが前提になる。不妊治療は一人ひとり治療の組み合わせが異なり、未承認の薬も使う。すべてを保険適用するには時間がかかる。一部の治療法が保険適用で標準になると、治療の選択肢が狭まる。産科医にとっては質の低下や収入が減る懸念も出る。菅のトップダウンでも医療現場から合意を得るのは簡単ではない。

オンライン教育の導入でも摩擦が生じる。文部科学省は概算要求でネットワーク整備やデジタル教科書の導入支援を盛り込んだ。デジタル改革相の平井卓也は2日、遠隔も授業時間と認めることを念頭に「不要な規制を外していこう」と文科相の萩生田光一に呼びかけた。萩生田は「遠隔授業そのものを否定しない」としつつ「どの教育段階もすべて授業とカウントするのは少し乱暴」とくぎを刺した。

教員の間でも従来のやり方が変わることへの抵抗が少なくない。文科省の中央教育審議会では「すべて遠隔を認めれば通信制と同じ」といった反対意見が飛び交い、9月末の中間報告は「対面と遠隔指導を併用し児童生徒それぞれにあった学びを実現する」と、慎重派にも配慮する玉虫色の結論になった。

医療も教育もコロナ禍で旧態依然とした体質が問題となった。改革のスピードを上げられるかは未知数だ。(敬称略)

女性「キャリア見直し」過半数 テレワーク「不安」も

日経ウーマノミクス・プロジェクト調査

新型コロナウイルスへの対応でテレワークなど働き方が変わり、女性の意識が変化している。8月下旬の日経ウーマノミクス・プロジェクト会員への調査では、1136人中54.6%が「転職や副業、起業、学び直しを具体的に考えたり、行動したりした」と回答。キャリア見直しに動いていた。

「職歴を整理してみようと転職サイトに登録した」のはシステムエンジニアの30代女性。「明確な転職意思はない」としながらも、「自分にどんなオファーが来るのか、興味を持つようになった」。

職歴整理にとどまらない。ほぼ毎日テレワークをしている人からは「米国公認会計士(CPA)など勉強中。電車の時間がなくなりありがたい」(30代)、「副業解禁に備え勉強していたが、2月末からは通勤時間があてられるようになった」(40代)といった声が上がった。転職・起業まではいかなくても「自分で事業を立ち上げられないか、社内新規事業を応援するプログラムに参加している」20代もいた。「価値観が一変した」結果、21年間務めた自治体を退職し、「転職、フリーランス、起業と劇的に変化した」(50代)人もいた。

通勤などで浮いた時間の使い方で目立ったのは、資格の取得やスキル向上を図る動きだ。オンラインで「外国語の習得にチャレンジ」(40代)する人は多かった。他にも「3月以降、パイソンのプログラミングと簿記の勉強を始めた」(50代)。30代の一般事務女性は「今後、メンタルヘルス対策の需要が増えると考え、心理学資格の通信教育を始めた」。

勤め先への不満から転職活動を始める人も一定数いた。通信会社のマーケティング部門で働く30代が転職エージェントに相談したのはテレワーク時にウェブカメラの常時接続を求められ、「ハラスメントだと感じた」からだ。「希望者が多い割に募集が少なく、給与が下がる可能性が高くても転職を検討する」と語る。

テレワークをしていない人にもキャリア見直しの動きは広がっていた。30代営業職女性は「どの業界も安心できない。国家資格を取るため勉強している」という。40代の通信サービス業で働く女性は「テレワーク不可の会社から、可能な会社に転職した。元の会社は休業したので正しい判断だった」としていた。

■テレワーク「働きやすくなった」7割

公園で電話に出る中山茉莉花さん(東京都渋谷区)

公園で電話に出る中山茉莉花さん(東京都渋谷区)

月数回以上テレワークをしている人を対象にテレワーク拡大後の働きやすさを聞いた設問では971人中「とても働きやすくなった」と「どちらかといえば働きやすくなった」を選んだ人が7割に達した。「ほぼ毎日」テレワークをしている人が950人中50%と最も多く、週2~4日が35.8%で続いた。

小売業の商品企画部門で働く中山茉莉花さん(34)はテレワーク導入で働きやすくなったと回答した一人。浮いた通勤時間に身体を動かし、ワークライフバランスの充実を図る。新規商品を開拓する業務を担う中山さんは外回りが多く「部署内でそれぞれの仕事の進捗を確認できる仕組みになれば、もっと効率的になるだろう」と話す。

「親の介護対応や子どもの下校時に居られるようになった」(40代)一方、「小さな子供がいるので保育園から帰ってきた後は全く仕事ができない」(40代)という回答もあった。自宅での仕事は各社員の家庭の事情が入り込む点で出勤とは違う難しさもある。野村総合研究所の武田佳奈・上級コンサルタントは「従業員の置かれた状況などを踏まえて、きめ細かく生産性を最大化できる働き方を検討していくべきだ」という。

テレワークが定着し、課題も明らかになった。「勤務開始時・終了時に予定や業務内容を記したメールを送ったが、30分以上要した作業でも一言『取引先にメール』となり、上司への報告に困る」(30代)や「勤務時間外に1回電話に出なかっただけで仕事をしていないと見なされ、上司との関係が悪化した」(20代)。反対に部長クラス(40代)から「通勤がなくなったのは良かったが、部下の管理が大変」との声もあった。

下期の人事考課にテレワークの成果がどう反映されるか案じる声もあった。「働きぶりが見えないと、男女の昇給にもっと差が出るのではないかと心配」(30代)、「上司から見えないので、きちんと評価してもらえるか不安」(40代)で週1~2回の出勤を望むという意見もあった。

独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は「日本は職務内容や成果だけで評価されるわけではないので、職場を離れた場所での働き方では問題が発生しがち」という。そのうえで「『遅くまで頑張っている』などというプロセス評価が人事考課の大きな要素を占めているため、評価制度の見直しも含めた議論が必要だ」と指摘している。

■マネジメントの改善急務

 今回印象に残ったのが「常時ウェブカメラ接続の上、在宅勤務を求められる」や「離席する際にはチャットに投稿しなければならない」などの不満だ。上司が仕事を細かく管理しようとするマイクロマネジメントの徹底は、状況の把握に効果的だが、「信頼されていないのではないか」と部下を不安にさせる恐れもある。アンケートには「『トイレに行ってきます』とチーム全員に断らなければならず、モラル・ハラスメントだと感じる」との回答もあった。
 在宅勤務は多くの人にとって朗報となるはずだったが、ひずみも生じている。新型コロナウイルスへの緊急措置として導入された在宅勤務が定着するかどうかは、マネジメントの改善にかかっている。(山下美菜子)